古いモラルをつき崩し、優れた人心掌握術と調整能力でのし上がった男、清水次郎長
男が男に惚れる侠気の世界を魅力いっぱいに描いた傑作
文政三年(1820)元旦に、駿河国清水港で雲見ずの三右衛門と言われた船頭の子として生まれた長五郎は、叔父で米屋を営む山本次郎八の養子となる。次郎八のところの長五郎だから次郎長。
喧嘩がめっぽう強くて、気っぷがいい次郎長は、家業そっちのけで親友の江尻の大熊と一緒に、喧嘩三昧の日々を送っていた。ある日、酒を飲みすぎて喧嘩で傷ついた次郎長は、大熊の妹・お蝶の手厚い看護を受けて一目惚れする。やくざの嫌いなお蝶のためにまっとうに生きようとした次郎長だったが、旅の僧の「二十五歳までの命」との言葉を信じ、太く短く生きようと、博打の道に身を投じる。
その後次郎長は、恩ある和田島太左衛門の縄張りでイカサマ賭博を開いていた五丁徳一家をたたきのめす。一気に名をあげた次郎長のもとには、桶屋の鬼吉や関東綱五郎、大政、そして投げ節お仲などが集まりはじめた。続いて太左衛門と甲州一の大親分・津向の文吉とのいざこざを一人でおさめた次郎長の名は、一段とあがった。
和田島と津向を対立させ、共倒れを狙っていた黒駒の勝蔵、竹居の吃安らは、目障りな次郎長をつぶそうと喧嘩を仕掛けた。次郎長と妹•お蝶の幸せを願う江尻の大熊は、その喧嘩状を次郎長には見せずに、単身乗り込む。
次郎長とお蝶の祝言の夜、大熊は死ぬ。
花嫁衣裳のお蝶を残したまま、次郎長は親友・大熊の仇討ちへと向かうのだった。