第1話 運命
昭和二年、春。三枝伝右衛門は甲府西郡、白部村の大地主。妻絹との間に、文彦(10歳)、ひかる(5歳)の二人の子どもがいる。伝右衛門は商用でよく出かける横浜に、愛人を持っていた。琴子という売れっ子芸者で、かれこれ三年あまりの付き合いになる。そんなある日、伝右衛門は横浜で、自分のカバンを盗もうとした浮浪児と知り合った。そして、事の成りゆきで、その男の子を三枝家へ連れて帰ることになった。その子は手のつけられない乱暴者で名前も教えようとはしなかった。さて、三枝家では突然の闖入者に一同唖然。子供たちは脅え、絹も伝右衛門の気持ちを推し量りかねた。