第58回  弘前 江戸から続く悠久の歴史を旅する

弘前 江戸から続く悠久の歴史を旅する 第58回

前回の青森から足を延ばして弘前へ。天守が現存する弘前城が歴史マニアに人気の高いここ弘前は、じつは明治以降の貴重な近代建築も多く残る場所だ。明治39年に建てられた「旧弘前市立図書館」は、ルネサンス風の意匠を基調とした木造3階建て。ほか、洋風建築では明治8年建築の「日本基督教団弘前教会」や明治12年建設の「青森銀行記念館」など。 文明開化の香りを吸い込んで街を歩くと、「三忠食堂本店」が姿を現す。映画『津軽百年食堂』のモデルとなった雰囲気たっぷりの店構え。それもそのはず、当店は創業100年余の歴史を持つ老舗なのだ。サバでダシをとったスッキリスープの中華そばが530円也。具を沈めて、まずはスープをひと口。これこれ。北に行くほどにラーメンは美味しくなる。 食後は散歩がてら「旧石場住宅」へ。石場家は津軽藩政時代にわら工品などを扱っていた豪商、この商家は重要文化財に指定されている。ここ弘前では、そんな名所群を足掛かりに、江戸、明治からの時間の経過に思いを馳せながら、ふらり旅を楽しめるのがいいところ。 なんて言ってるうちに、街は暮れなずみ、当然、夜の街に足は向く。繁華街・鍛冶町をずんずん進んで「山水」の暖簾をくぐる。「身欠きニシンと筍」にするか、ふむ、「煮こごりと温泉玉子」もいいな。店自慢の創作和食を東北の酒が引き立てる。奥様と二人で切り盛りする主人は漁師の生まれで、和食、洋食の修業を積んでお店を開いたのが20年ちょっと前。いつしか鍛冶町屈指の名店として人気を集め、訳知りの呑兵衛たちがふらり、ふらりとやってくる。あぁいい気分だ。もう1軒!となれば、「郷土料理 しまや」。ここでも、身欠きニシンと筍の煮物など津軽を代表する郷土料理がズラリならぶ。へぇ、「なすの紫蘇巻き油焼き」ね。今夜は土地の言葉も肴に加えて、どっぷり酔っぱらうとするか。

<太田和彦さんが訪ねたお店>
三忠食堂本店
青森県弘前市和徳町164

「山水」酒肴風月
青森県弘前市北川端町15

「郷土料理 しまや」
青森県弘前市元大工町31-1