第56回  江戸前にこだわる食文化・品川宿

江戸前にこだわる食文化・品川宿 第56回

今回旅するのは、東海道最初の宿場町・品川宿。京急・北品川駅付近には、釣り船や屋形船が繋留される「船溜まり」とよばれるスポットがある。水揚げ豊かな漁村として栄えた往時の面影を今に伝える、品川の名所だ。その船溜まりの向こうには木造の家屋があり、古い家並み越しに高層ビルがみえる。今と昔、最先端と江戸情緒が混在するまち。不思議な感覚に身を任せ、しばし歩く。見えるは、天ぷらやののれん。50年以上続いた「三浦屋」で、名物「あじ南蛮」をつまみ、品川地ビールでのどを洗う。初夏の湿り気を吹き飛ばす爽快なのど越しを楽しんだら、キス、メゴチ、アナゴ...女将さんがカラッと揚げる江戸前の魚がふんだんに乗った天丼が堂々の入場。たれが天ぷらと飯粒にほどよく染みて美味。女将の笑顔に見送られ、品川神社に足を延ばす。江戸のころは、富士山の頂上から品川の街が一望できたらしい。柄にもなく世の泰平を祈念して、旧街道で評判の割烹へ。戦前から開業する「牧野」は品川沖でとれる穴子が自慢。お造りと踊り焼きを肴に、長野の銘酒「瀧澤」をやる。さらに江戸前の旬を求め、こんどは河岸を変えて、羽田は穴守稲荷駅へ。生来、釣り好きの主人がうまい魚を出してくれる「千世」はずっと気になっていた店だ。評判の「釣りバカセット」は主人が釣った魚を日替わりで味わえる人気メニュー。息子さんこだわりの極上のお酒を舌で転がせば、思わず歓喜のため息が漏れる。舌で堪能できる江戸。ここには、いまもそれがある。

<太田和彦さんが訪ねたお店>
三浦屋(※閉店)
東京都品川区北品川1-28−11

大衆割烹「牧野」
東京都品川区北品川2-19-2

千世
東京都大田区羽田3-2-4